予防と健康管理ブロック・レポート
1) はじめに
今回のレポートは、2007年4月10日、4月19日の授業で供覧したビデオの内容(うつ病・アスベストについて)と関連した種々のキーワードから2つを選び、その組み合わせで科学論文を検索、参照して作成したものである。
うつ病、アスベスト問題は共に、現代の日本の医療における重要な問題のひとつである。うつ病は今の日本の各職場の圧迫感、不安感によるストレスの程度を示しており、またアスベスト問題は、石綿を扱う職人やその家族、また周辺住民までを巻き込んで潜伏してきて、近年徐々にその姿を現しつつある不透明で厄介な問題である。どちらの問題もただ病気を診察するだけでは解決されない。患者とその家族、そして各方面の医療従事者の協力の下に向き合っていくべきで問題である。このレポートの中で、選んだキーワードと論文、そしてビデオの内容を織り交ぜながらこれらの問題について調査・考察し、医師を目指すうえで、忘れてはならないこと、学んでいくべきことは何かをつかんでいきたい。
2) キーワード
ストレッサー ライフスタイル
これらのキーワードを医中誌WebのBASIC検索に入力し、ヒットした論文の中から2つを選んだ。
3) 選んだ論文の内容の概要
1つ目:【生活習慣の改善の方策】 ストレス管理
高血圧の発症には、遺伝素因と環境要因が大きく関与しているものであり、その原因は社会習慣の急激な変化によるものであ
る。そこで高血圧をストレス疾患として捉え、生物医学・心理学・社会学からなる人間科学としての新しい心身的アプローチが必
要となってきている。以上のことを踏まえ、高血圧に対するストレス管理について解説していく。
T ストレス概論
ストレッサーとは生体に何らかの反応を引き起こす外的な刺激のことで、生活環境そのものと考えられる。ストレッサーは
次の四つに大別される。
生物的 |
生態に生物学的な影響を与えるもの(細菌・ウイルス・花粉など) |
物理的 |
生活環境での刺激そのもの(寒冷・高温・紫外線・騒音など) |
化学的 |
生体に化学的な変化を起こす刺激(タバコ・酒・シンナー・ダイオキシンなど) |
社会的 |
心身症との関連においてきわめて重要(人間関係・中間管理職など) |
ストレッサーをどう受け取るかは個人によって異なる。そのため、人の心と社会におけるストレスはいくつかの要因がきわめて複雑に絡んでいる。このストレスを心理・社会的ストレスといい、要因として性格、生育環境、行動様式、現在の環境、生活内容などが挙げられる。これらの要因の側面から、どのような人生における出来事(life events)が高いストレスを引き起こすのかを調査した研究もある。(*)
様々なストレスに対処していく過程のことをコーピング(coping)といい、自動的ではない努力を要するものと定義される。コーピングを行う際に、前提として必要なのは「個人の持つ心理、社会的資源」である。この資源という言葉は、健康とエネルギー、知的能力、問題解決の技能、社会的技能、ポジティブな信念、ソーシャルサポート、物質的資源(金銭など)のことを意味している。この資源の中でも特に重要なものとして挙げられるのがソーシャルサポートである。ソーシャルサポートを十分に受けられる人は、そうでない人に比べて、よりストレスの悪影響を受けにくく健康状態も悪化しにくいことがわかっている。そのため、ストレスに対して有効な「資源」を築こうとする場合、自分がストレス状況に陥った時に情緒的・情報的・物質的なサポートをしてくれるような人間関係を持つこともきわめて重要といえる。
U心身医学的アプローチ法
高血圧状態では、情動ストレス負荷が心臓発作や脳卒中の引き金となり、慢性化すると脳梗塞、心筋梗塞、不整脈が起こりやすくなる。この予防には不安・抑うつ・不眠のコントロールなどのメンタルケアが不可欠である。
情動ストレスは血圧、心拍数、臓器血流量などの循環要因を変化させるため、高血圧だけでなく心臓疾患全般などの発病、経過、予後にも大きく影響する。これに対して生体機能も亢進して対応を図るが、それも長くは続かず、カテコールアミンの減少、血圧低下、心拍数減少などの心身消耗状態が惹起される。こうなると、臨床症状も生体変化もうつ状態と同様の症状を示しやすくなる。また、ストレスを受け止める生体側にも要因があり、どう受け止めるかが問題となる。ストレスを受け止める側の精神状態は病気の発生・経過・予後にも影響を与えるので、医療者はまず患者と信頼関係を築き、あらゆる背景を考慮しながら薬物治療、、ストレスコントロール法などの治療法から適切なものを選び、心身医学的アプローチにより治療を進めていかなければならない。
(*)Holmesらが発表した「社会再適応評価尺度」や、その他のストレス尺度を用いた研究・調査に興味を持ち、次に述べる論文を選んだ。
2つ目:企業別に見たイベント型職場ストレッサーの心理的検討
<目的>
従来の職場におけるライフイベントの測定には、Holmesの尺度のように、一般的に考えられるイベントとそれに対する負担度を得点として表してきた。しかし個人が属する社会背景により、心理やコーピング方法が異なることを考慮すると、特定企業における特異的なストレッサーを対象とすることが有効であるといえる。したがって、A、B社の2企業を対象として、各企業の従業員用のイベント型ストレッサー尺度を作成するため本研究を行う。
<方法>
イベント型職場ストレッサー尺度を使用し、被験者に過去一年間における各項目の体験の有無を、「はい」「いいえ」の2件法によって回答を求めた。さらに体験ありの場合は、その体験がどの程度負担であったかを4件法(0.まったく負担ではなかった、1.あまり負担ではなかった、2.やや負担だった、3.かなり負担だった)で評定を求めた。
心理的ストレス反応尺度として、職場ストレス・スケール(JSS)の中でも最も消極的な6尺度(‘怒り‘、‘循環器系の不調‘、‘対人場面での緊張感‘、‘疲労‘、‘過敏‘、‘抑うつ‘)を用い、当てはまるか否かを5段階(1.まったくあてはまらない、2.あまりあてはまらない、3.どちらでもない、4.ややあてはまる、5.よくあてはまる)で回答を求め、それを得点として表す。この調査の結果からのストレッサー尺度の決定は、次の2つを共に満足するイベント項目のみとする。
1)
各企業で過半数の従業員が「負担だった」との評定を行うイベント(負担度の評定)
2)
あるイベントの体験がある群の得点の平均値が、ない群よりも有意に高い場合、そのイベント(心理的ストレス反応との関連)
<結果・考察>
上記の方法により調査結果を検討すると、上司・部下とのトラブルや仕事上の失敗などといったイベントの精神的健康への被害は、従来の研究からも明らかなようにどの企業を通してもほぼ確実にストレッサーとなる。しかし”仕事のやり方が変わった“や、”自分が長い間担当してきた仕事が中断した“など、A、B各社の中で特徴的に起こっている現象や問題の状況により、ストレッサー候補となるイベント項目にはいくつかの違いがみられた。またイベントが生じた際の企業側からの説明の有無は心理的ストレス反応の上昇を緩和する可能性も考えられる。以上の結果と検討より、企業ごとの就業形態や就業状況、調査時期等の背景要因によってストレッサーとなりうるイベント項目は変化するということが確認できた。このことから、イベント型職場ストレッサー尺度を企業従業員に施行する際には、尺度を構成するイベント項目と調査時点における当該企業の特徴との対応を考慮する必要があると考えられた。
4) 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
今回授業で供覧したビデオの内容は両者とも、現代の日本で深刻な問題として注目されているものであった。
アスベスト問題では、高度成長に気をとられ、健康への配慮を欠いたことが30〜40年の潜伏期を経て徐々に現れてきた。石綿
の危険性を知る由もなかった従業員、そして無関係だった周辺住民が、避けられたかもしれない病気で苦しんでいる。今すべきなの
は、出来る限りの早期発見のために、各機関が過去に石綿を使用していた工場での労働経験がないか、またそういった工場の近く
にすんでいたことはないかということを全国へ問いかけ、患者に自分で気付かせることだろう。医療側も肺疾患の診断の際に、アス
ベストの可能性を心に留めておかなければならない。
うつ病はここ数年の行き詰った日本を反映している。企業でのリストラや不本意な仕事など、ストレスの原因は際限がない。すでにうつ病の患者には少しでも早い社会復帰を手伝い、またうつ病予備軍の人たちの発見とケアも非常に重要である。各企業内での産業医による診察に力を入れ、ストレスの程度を調査するなど、従業員を大切にする姿勢が求められる。
私たちは、生活する上であらゆるものにさらされている。有害化学物質や公害の被害、紫外線・・・。しかし私たちの心身に最も強く影響するのは、自分以外の人との関わりだと思う。人は独りで生きていくことは不可能で、その様々な関わりの中で、困難に陥ったり心を痛めることもあるだろう。しかしそういった場合に救いとなるのもまた、人との関わりだと思う。上記の1つ目の論文の中でも、周りの人たちから受けられるソーシャルサポートが非常に重要であると述べられていたように、ストレスや孤独、不安を抱えている時の人との関係は、良くも悪くも大きな影響となる。職場ならば、2つ目の論文中で作成されていたような徹底的な調査をし、過度のストレス負荷を防止し、家庭内でも話し合いの場を多く設け、お互いの心の状態に気を配っておくことが必要だ。そして、心が不安定なのは患者にも当然当てはまる。医師という人を救うことを目的とする職につく上で、そういった根本的な心と心のつながりを大切に、信頼関係を築くことを忘れないでいたい。
5) まとめ
今回のレポート作成を通して、今の日本で問題となっているアスベストやうつ病について調べ、再認識することが出来た。石綿の使用禁止がヨーロッパより10年も遅れていたこと、企業での社員の心情を無視した労働負荷など、健康管理への軽視が大きく影響していると感じた。これからも、今は気付いていないがそのうち何らかの形となって表面化する問題が起きてくるかも知れない。そういった場合にも自分に最大限出来ることがすぐに見出せるよう勉強を重ねて行きたい。誰もが「ストレスは人生のスパイスである」と感じられるようになれたらそれ以上の理想的な状況はないだろう。
また、今回のレポート作成では、自分で選んだキーワードから自分で興味を惹かれる論文を選び、それについて要約、調査、意見、などを行い、今までに経験がないような本格的なレポート作りとなった。論文の検索方法や正しい論文の書き方を学ぶことが出来、非常に貴重な体験となった。調査した内容はもちろん、このレポートを作成した過程や考え方を忘れず、これからの勉強に役立てて行きたい。
参考論文:【生活習慣の改善の方策】 ストレス管理 飯田俊穂(慈泉会相澤病院 心身医療センター・心療内科)
企業別にみたイベント型職場ストレッサーの心理学的検討 大塚泰正、小杉正太郎(早稲田大学文学部心理学教室)